中国・ファーウェイのスマートフォン事業が危機に瀕しているファーウェイのスマートフォン事業に暗雲が立ち込めている Photo by Hiroyuki Oya

中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォン事業が危機に瀕している。米国政府の制裁に、米グーグルに続いて半導体設計大手の英アームが追随。半導体の内製化という、スマホ事業の戦略の根幹を揺るがす事態に陥っている。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

 基幹ソフト(OS)に半導体――。スマートフォンの“心臓部”を押さえられたことで、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)のスマホ事業が崖っぷちに立たされている。

 

 米国からのファーウェイへの輸出を禁じた米国政府の経済制裁。中でも消費者へのインパクトを与えたのが、米グーグルの制裁措置への追随だ。

 ファーウェイのスマホのOSは、グーグルが提供する「アンドロイド」。そのアップデートが今後停止したり、「Gメール」「グーグルマップ」などさまざまなグーグル製のサービスが使えなくなったりする恐れが出てきたのだ。

グーグル「今後90日はアッデートを提供」

 グーグルは輸出規制を90日間猶予する一時的な認可証を米商務省から取得。「スマホを最新かつ安全な状態に保つことは、すべての人にとって最大の関心事。今後90日間、既存端末のソフトウェアアップデートとセキュリティパッチを提供し続けることができる」とコメントした。

しかし、猶予期間の終了後もグーグルがサポートを続けることができるかどうかは不明だ。

 こうした状況もあって、NTTドコモ、KDDIソフトバンクの通信大手3社は一斉に、ファーウェイ最新機種の販売延期や予約停止に踏み切った。

 

 ただ米国からの制裁を見越してか、ファーウェイは傘下のハイシリコンで、半導体の内製化を推進。独自の半導体「キリン」を開発し、米国製の半導体に頼らなくともスマホ事業を継続するための下地を築いてきた。

 独自OSについても開発中で、コンシューマー事業グループCEOのリチャード・ユー氏は、「中国国内では今秋、海外でも2020年の第1四半期~第2四半期に提供する準備をしている」と海外メディアに対して22日、語った。

 もともと中国国内では、グーグルのサービスは利用できない。Gメールなどが使えないことは海外市場では痛手になるが、独自OSと独自半導体があれば中国市場は死守できる。スマホ事業を続けていけば、将来、新興国などの海外市場で独自OSを普及させることだって不可能ではない。

 こんな青写真を描いていたはずのスマホ戦略の、根本を瓦解させるような事態が起きた。

 それは、ソフトバンクグループ傘下の英アーム・ホールディングスが、ハイシリコンとの取引停止に踏み切ったからだ。

 アームは半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)を設計し、その“設計図”を半導体メーカーに提供することに特化した、IP(知的財産)を武器とする企業だ。

 英国企業だが、米テキサス州オースティンやカリフォルニア州サンノゼに設計開発拠点を設けている。米国はファーウェイへの制裁措置について、「米国由来のものが25%を超えると制裁対象」としており、このルールに抵触したとみられる。

シェア9割のアーム抜きで半導体は作れない

 アームの設計図の強みは、低消費電力だ。この特徴が支持され、今ではスマホ向け半導体のシェアは約9割に達している。

 アップルのiPhoneに搭載されている半導体「A」シリーズや、米クアルコムの「スナップドラゴン」、韓国サムスン電子の「エクシノス」……。これら代表的なスマホ向け半導体はすべてアームの設計図を使っており、キリンも例外ではない。

 つまり、アームの設計図を使えなくなれば、そもそもハイシリコンはキリンが製造できなくなり、半導体の内製化というファーウェイの戦略の根幹が狂うのだ。

 アームに頼らない独自半導体を作ろうにも、低消費電力に長けたアームの特許に抵触しない形で高性能な半導体を設計することは容易ではない。

 加えて、独自半導体を設計できたとしても、アームが築き上げてきた巨大なエコシステムから抜けることへの弊害が生じる。

 スマホのOSやその上で動作する多彩なソフトウェアは、アームの設計図を使った半導体に対応するよう開発されてきた。開発を手助けするツールも充実しており、ソフトウェアの開発者たちはその環境に慣れきっている。

 既存の開発環境を捨て、ファーウェイの独自半導体の世界についてきてくれる企業や開発者がどれだけいるかは定かではない。

 また、ファーウェイの独自OSは、オープンソースであるアンドロイドをカスタマイズしたものとみられている。独自半導体へ移行したとしても、そもそもこの独自OSが動作するかが疑問になってくる。

 アームは、「米国政府によって定められた最新の規制を遵守するとともに、確実に遵守できるよう政府関連機関との話し合いを継続的に行っている」と取引停止について事実上認めた上で、「長期的なパートナーであるハイシリコン社との関係を重視しており、この件に関する迅速な解決を希望している」とコメントした。

ただ、ファーウェイ向けビジネスが停止しても、現時点でのアームの業績への影響は軽微とみられている。

 アームの収入の6割は、ライセンス先企業の半導体の出荷台数に応じて受け取るロイヤルティだ。

 

 スマホ市場でファーウェイのシェアが低下しても、その分、アップルやサムスンなどの他メーカーがシェアを伸ばしてくれれば、そこに搭載された半導体のロイヤルティ収入で補える。

 従って、スマホ市場全体が縮小しない限り、アームの収益は落ちないと業界ではみられている(インテルの牙城であるデータセンター向け半導体市場で、切り崩しのための手駒を失うことは痛いかもしれないが)。

 ファーウェイへの部品供給がストップすれば、大量の在庫を抱え、工場の稼働率が低下するリスクを抱える日本の部品メーカーとは、根本的に状況は異なるのだ。

 米国はOSや半導体の設計図という、スマホの根幹であり、ファーウェイの泣き所を狙い撃ちした。ソフトよりもハードを重視してきたことで、大口顧客の窮地に右往左往する日本メーカーが学ぶべきことは多そうだ。