「もしかすると、早いうちに実名報道ができなくなるかも……」

 神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の大量殺傷事件で逮捕された植松聖容疑者に精神疾患の疑いがあり、ある情報番組のテレビディレクターは慎重な対応を検討しているという。

「局のガイドラインでは、心神喪失者の事件は匿名報道が原則です。実際には、裁判で認定されてから匿名に切り替えることが多いですが、ルール上は法律的に心神喪失とされなくても、精神障害による犯行と推定できるような場合は匿名報道にするよう定められているんですよ。これは、他局も同じような決まりになっています。今回の場合、容疑者が2月に緊急入院していて大麻精神病や妄想性障害の診断がされているので、早めに匿名に切り替える選択も視野に入れています」

 植松容疑者は事件前、クリスチャンでもないのに「神のお告げ」という言葉を乱用していたという話だ。今年2月に会ったという高校時代の友人男性は「朝の5時ぐらいに半年ぶりぐらいに電話してきて、『神のお告げで人生変わった』という話を一方的にされた。翌日の朝も、また同じ内容の電話をしてきて、気味が悪かった」と言っている。

「福祉関係の仕事をしているとは聞いていたけど、卒業後は付き合いが減っていたので詳しいことは知らなかったです。学生時代はアニメキャラモノマネでみんなを笑わせたり、明るく活発。それが電話では口調が暗くて、学生時代とはまったく違う別人のようでした。まさか殺人事件を起こすとは思わなかったけど、病んでいるような感じはしましたね」(同)

 この男性によると、同じ大学に通っていた別の友人からは「1年ぐらい前、植松がLINEの輪から黙って抜けていった。電話で理由を聞いたら『神のお告げ』と言っていた」との話を聞いたという。

 植松容疑者は事件現場の「やまゆり園」から徒歩圏内にひとりで暮らし、12年12月から働いていたが、入所者への暴力や「障害者を抹殺すべき」といった言動が重なり、今年2月に自主退職となった。その際、精神保健福祉法に基づいて措置入院が取られている。これは、指定医2名以上が「加害の恐れ」を判断したもので、定期診察の末、入院12日後の退院が認められた。短期間ながら、精神疾患が認められたという事実ではある。

 心神喪失者の犯罪では、児童8人が殺害された同じ大量殺人、01年6月の大阪・池田小事件をきっかけに、「心神喪失者等医療観察法」が成立。重大事件を起こした心神喪失者が無罪や不起訴となった場合、強制的な入院や治療を行うことになった。「植松容疑者がもしそうなれば、どんなに危険な人物であってもメディア的には匿名報道の原則で、人権問題などもあるので、はなから取り扱わないNG案件になる」と前出のディレクター

 しかし、その腫れ物に触るような状態が、結果的に逆効果を引き起こすケースもあるという。メンタルカウンセラーの野村高一氏は「過剰な保護は、むしろ異常な性質が保たれやすいという見解もある」と話す。

「たとえば神戸連続児童殺傷事件の犯人は、反社会性パーソナリティ障害とされ、事件後に医療少年院に入院した少年犯罪であったため、メディアでも匿名が堅く守られました。しかし、過度に保護した結果、大きな人格の変革が期待できなくなり、実際に日常生活に戻っても著書やホームページで被害者を愚弄するような、おかしな言動を見せました。もし、植松容疑者が精神疾患などで減刑された場合、人権に配慮しすぎて、その後どんな回復の道をたどるのか見えにくくなり、異常性が保持されたままになってしまう可能性もあるんです。犯罪者には厳しくとも、少年や精神疾患であると極端に逆の方向に向かいすぎるのは危ない」(同)

 植松容疑者は事件直前、近隣の草刈りを自主的に行っていた一方、2月に衆議院議長に宛てた手紙で、事件の起きた施設の実名を記して犯行を予告し、犯行後の「金銭的支援5億円」を要求するなど、不可解な行動を取っていた。

コメンテーターもその行動が理解できず、戸惑った内容しか言えていなかった。事件前の容疑者の様子を聞けば聞くほど、心神喪失の疑いが濃くなっているので、将来的な匿名報道は避けられないかも」(同)

 いずれにせよ、措置入院から退院して間もない凶行という部分については、さまざまな見解が飛び交いそうだ。
(文=片岡亮NEWSIDETokyo)